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雲は散って、星になる。

色とりどりの雨が繰り返し人生を彩っている。僕は俯いて歩幅を確かめて、この世界に存在していることを感じる。隠しきれない命の輝きを、彗星が通った後の風に乗せて、同じ場所の同じ心を感じる。一人で言えない尊さを、どうすればこの世界に響かせることができるのだろうと、感じる。受け取る。

春になって桜が咲いて、もう一回繰り返す季節が来る。何回も何千回も繰り返してきた人生だから、明日にならない言葉の数々を、僕たちは知っている。信じてきたものが全てだと思っていたから、どうすればいいか分からない。昨日に戻ることばかり考えていた、明日に行くことばかり考えていた。そうやって生きていくものだと思っていた。愛がこもった珈琲を飲んで、ケーキ屋の前を通りながらあなたと行った場所を思い返してみる。風の強い日だった。

ずっと一緒に居られるなんて、思っていなかった。自分だけが人生を歩んでいると思っていた。公園の角の桜の木が、僕たちのことを知っているなんて、そんなこと気づきもしなかった。

卒業。僕は今日、人生を終える。苦しくなっているのではない、毎日僕は移り変わる。僕は毎日、人生を終える。真に受けることなんてないけれど、僕は泥棒みたいに人生を生きていた気がするんだ。色とりどりの傘が開いては閉じて、僕のことを守ってくれていたことなんて、僕は知る由もなかったんだ。もっともっと昔にこの世界に降り立った僕は、ピアノを弾いていた気がするんだ。

僕は誰よりも、心の中に別れを抱いている。あの時出逢うことができなかった、人生をやり直したいと言っていたあの先生たちのことも、限りある人生のことも、全部全部、知らなかったんだ。午前三時になると、おもむろにピアノを弾きたくなるんだ。取手を掴んで、美しい夜の街灯に、旋律を乗せる。生きるために盗んできた世界だから、この音は世界には聞こえない。

嘘ばかりついている世界に、僕は騙されない。あなたはきっと、泣かないだろう。あなたはこの世界から卒業しても、泣かないだろう。でも本当に、この人生ですべてが終わりだったら、一体どうすればいいのだろうか。笑っていた世界すらも、そういうところが好きだったと、わがままを聞くこともできないのだろうか。

僕は弱かった。僕の一番好きなものは自分だった。この心だった。みぞおち辺りに感じているこの心さえなくなることが無ければ、僕は生きていられる。甘いケーキを食べる。そういうところが好きだったと、君が言う。笑顔で何も変わらない世界と、そっと変わる心。秒針が少し固まる。時間が止まる。そっと僕の中に風が吹いて、そっと人生がまた始まる。

空色のスヌーズが、僕のことをまた起こす。ほら、人生が始まったよとまた起こす。別れがあったら出逢いが在るのが、まだ僕には理解できないから、僕はベッドで出られないと呟く。夜を抜ければ朝が来るけど、その夜は愛されることはないのだろうか。僕の両眼には、写らないほうの愛情が、世界が、人生が。僕たちは人生の節目に、限りない永遠を見る。そして、その青春が輝かしいものであればあるほど、生きること、この世界に存在することの喜びを知る。

おめでとう、なんて言わなくていいからさ、僕から、ありがとうと、言わせてよ。

涙や雨、寂しさなど、澄んだ青を主なテーマに、
文章を紡ぐ作家「海野深一」の公式ポートフォリオサイトです。

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